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- 2018.03.18 Sunday
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( ずっと一緒 )
陽射しがトウキビの葉っぱを縫って
ツグ君のシャツに模様を付けます
ツグ君が走れば 模様も走ります
「 おばあちゃん、お髭の黒いこのトウキビも捥いで良い? 」
「 どれ、どれ 」
おばあちゃんはトウキビの皮を少しめくり
「 次春、これを捥いだらエンドウ豆も集めておくれ 」
「 うん、わかった 」
ツグ君はトウキビの髭をちぎり、それを顎に当てると
「 あ〜ちゃん、お爺さんだぞぅ 」
「 あ〜ちゃんも、あ〜ちゃんも 」
・ ・ ・
エンドウの畑は人を拒むように
その弦を城壁の様に伸ばし 行く手を阻んで居るように見えます
ツグ君は畑の奥まった場所に
一際大きなエンドウ豆の実を見つけ
両手でその実を引き千切ろうと引っ張ります
ドシン!
弦が千切れると同時にツグ君はしりもちをついてしまいました
「 あれ? 」
両手で包んでいるエンドウの鞘が淡い緑色に光っている
指先を少しずつ広げると 声が聞こえます
「 ファァ〜ッ 」
広げた手のひらの上で 小さな妖精が伸びをしています
ツグ君は、顔を近づけ覗き込むように
「 僕は川上次春、君はだぁ〜れ 」
「 あっ、わかった、ベルさんでしょ 」
「 僕、ご本で読んだことが有るから知ってるんだぁ 」
パフッ
ツグ君は手のひらをいきなり閉じると走り出し
「 おばあちゃん、ベルさんを見つけたよ 」
おぱあちゃんは ツグ君の差し出す手のひらを眺め
「 大きなエンドウだけど それだけじゃ足りないよ 」
ツグ君の肩の上で声が聞こえる
「 フフフ、ベルはツグ君にしか見えないよ 」
「 次春、エンドウ豆をこのザル一杯に
取って来ておくれ 」
おばあちゃんはツグ君にザルを渡すと
トウキビの入った籠を持ち上げ
「 ばあちゃんは、ちょっとトウキビを
家に置いてくるからね 」
と言って、ツグ君の話は聞いて貰えません
「 あ〜ちゃん、あ〜ちゃんはベルさんが見える? 」
「 あ〜ちゃん、わかんない 」
ベルさんはあ〜ちゃんの肩の上に乗って
「 フフフ 」と笑い
淡い光を残して、スゥーとエンドウ畑に消えていきました
・ ・ ・
夕ご飯を済ますと おばあちゃんが
「 次春、彩那、パパとママに
おやすみなさいをしようね 」
ツグ君は慣れた手つきで仏壇の引き出しから
お数珠を取り出し
「 はい、あ〜ちゃん 」
二人はおばあちゃんの後ろに並んで正座をします
チーン
ツグ君はパパの匂いを覚えています
ママの匂いを覚えています
パパとママを車ごと飲み込んだ
赤い赤い炎を覚えています
「 ナムナム・・・・ 」
「 おやすみなさい 」ペコリ
「 次春、寝る前にオシッコに行くんですよ 」
「 もう行ったよ 」( 噓です )
「 おにいちゃん、オネショしちゃだめですよ 」
「 あ〜ちゃんは、うるさいのっ 」プンプン
布団の中でウトウトしていると
「 ツグ君、ツグ君、オシッコに行くんでしょ 」
「 う〜ん 」
「 ツグ君、ツグ君、起きて、起きて 」
瞼を少し開けるとベルさんが鼻の頭に立っています
ツグ君は目をこすりながら布団から立ち上がると
おじいちゃんが「 ツグ、どうした 」
「 うん、オシッコ 」
「 おぅ、行っといで 」
縁側に出ると トイレまでの廊下を
ベルさんが案内するみたいに
スィー っと淡い光の筋を付けて飛んで行きます
バタン
オシッコが終わり トイレから縁側の廊下に出ると
少し冷たい風が ツグ君の背中を押します
エッグッ!
ツグ君の瞳から大きな涙が頬を伝い落ちてゆきます
「 ママ、・・ママ 」
ウゥッ、ウゥッ、ウッ、ウッ、
涙がとめどなくポロポロと落ちていきます
「 ツグ君、泣かないで 」
「 ツグ君、ツグ君、 」
「 ベルがついているからね 」
「 ベルはずっと一緒だからね 」
ベルはツグ君のほっぺに体を摺り寄せて
「 ベルが居ればさみしくなんかないよね 」
「 うん、ウゥッ、ウゥッ 」
ツグはベルに返事をしながら
フラフラと布団に潜り込みました
やがてツグが静かな寝息を立てるまで
ベルはずっとツグ君の頬を撫でていました
・ ・ ・
朝、おばあちゃんはツグ君の布団の中に手を入れると
「 よし! 大丈夫 」と小さく呟きます